中国EV・車載電池企業のグローバル戦略オートコアエーアイ、車載ミドルウエア関連技術を多角展開(中国)

2025年5月7日

近年では、家電製品や工場の生産設備、自動車部品などあらゆるものがIoT(Internet of Things、モノのインターネット)デバイス化し、相互に接続・連動するようになっている。特にSDV(注1)化が進む自動車領域では(本特集「AI実装のスマート化が進展」参照)、多様化するアプリケーション開発のニーズや、電装部品の増加に伴うコスト増に対応するため、車載ソフト/ミドルウエアの開発が盛んに進められている。本稿では、同分野の技術発展が著しい中国の新興企業、奥特酷智能科技(オートコアエーアイ)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの張暘・最高経営責任者(CEO)へのインタビューをまとめた(取材日2025年2月27日)。同社の手掛ける自動車向けソリューションの技術優位性や、ロボットやファクトリーオートメーション(FA)など異分野への応用事例、日本企業との協業に関する展望などについて聞いた。


オートコアエーアイCEOの張暘博士(オートコアエーアイ提供)

自動車のドメイン全体にわたって開発のサポートが可能

質問:
オートコアエーアイの企業概要について。
答え:
昨今、ソフトウエアが自動車のあり方を定義し、電子電気アーキテクチャ(EEA、注2)そのものが大きく変化している。このような潮流を背景に、当社は、スマート・モビリティー・システムの製造過程のコスト低減や、開発リードタイム短縮に寄与することを目標とし、2018年に創業した。ボッシュのCVC外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ボッシュベンチャー)や、台湾電子機器大手のフォックスコン、中国大型投資ファンドのヒルハウスキャピタル、みずほ証券が共同GP(無限責任組合員)を務める投資ファンドMizuho Leaguer Investmentから出資を受けている。また、当社は中国南京市や英国ケンブリッジ、シンガポールに拠点を有している。主要顧客は、長安汽車や大手商用車部品サプライヤーのウェイチャイ・パワーをはじめとする完成車メーカー(OEM)や自動車部品ティア1サプライヤー(以下、ティア1)だ。
図1:オートコアエーアイの主要製品構成
当社が提供しているソリューションは主に3つの異なる形態の製品から構成されている。第一の製品は通信システム(AC.SYS)だ。細分化すると、マルチドメイン融合、総コストの最適化、市場参入までの時間短縮となる。第二の製品は車載OS(AC.OS)だ。具体的には、統一アプリケーションフレームワーク、コンテナ化されたアプリケーション、グローバルな決定論、安全性とサイバーセキュリティを指す。第三の製品はティア1向けのターンキーソリューション(AC.COMM)だ。具体的には、ソフトウェア/ハードウェアの分離、アジャイル開発およびDevOpsの採用、異なるシステムの相互接続を指す。

出所:オートコアエーアイ提供

当社が提供しているソリューションは主に3つの異なる形態の製品から構成されている(図1)。第1の製品は通信システムだ。マルチレイヤーの統合フレームワークを構築することで、制御ユニットや車載チップなど、異なるコンピューティングノード間の通信規格の混在などの課題を解決できる。従来型のEEAや、よりシンプルな構造の次世代EEAにおける通信の正規化に関する問題の解決が可能だ。第2の製品は車載OSだ。従来型の車載OSと異なるのは、完全な分散コンピューティングのフレームワークを採用している点だ。タスク配分・調整から遠隔・リアルタイム車両異常検知など、一連の能力により車体制御やシャシー制御、オートパイロットなど、さまざまな機能・アプリケーションの開発をサポートすることができる。第3の製品はティア1向けのターンキーソリューション(注3)だ。自動車、とりわけ次世代のSDV開発では、ティア1は車体を構成するモジュールごとにばらつきのあるソフトウエアシステムを統合する必要があり、それに多くの労力を割いている。当社はこうした状況に対するソリューションの提供が可能だ。
当社のビジネスの核心部分は、分散ネットワークでのコンピューティング環境上の問題を解決することだ。この技術を利用してサポートできる顧客は自動車業界にとどまらないことから、近年では異なる業界・産業にも事業を拡大している。
図2:インテリジェントモビリティー向けソリューションの概念図
左上から下に、SDV、機能層、SOA通信、LLOSと層が分かれている。中枢にはアプリケーションがあり、右上から下にはAI LLMベースのオーケストレーションエンジン、安全性および決定的なランタイム、システムサービスの層に分かれている。

出所:オートコアエーアイ提供

質問:
自動車の領域で、競合他社と比較した強みはどこにあるか。
答え:
われわれの主な強みは、中央制御の方式を取るゾーン・アーキテクチャをはじめとする、さまざまなEEAに柔軟に対応できるソリューションを有している点だ。さらに、車両全体に及ぶ全てのドメインの開発をサポートすることが可能だ。このようなフルスタックの能力を提供できるサプライヤーは現時点で少数だろう。
第2に、当社はOEMやティア1との協業に対し、非常にオープンな姿勢を取っている点が挙げられる。OEMの例を挙げる。彼らがEEAや車両全体を支えるソフトウエアプラットフォームを作り出す上での課題は多い。なぜなら、1台の自動車を作りあげる上で、非常に幅広い部品や機能の開発を行う必要があり、さらに、エンドユーザーのニーズにも気を配らなければならないからだ。こうしたOEMの助けとなるべく、当社は柔軟かつ多様な協業形態に対応している。例えば、多くのOEMやティア1が開発したソリューションの一部に、当社の製品が組み込まれるケースも多数ある。
第3の点は、自動車領域特有の、サプライヤーに対する特殊な要求や数値指標、求められる性能水準をよく理解しているという点だ。われわれは製品開発に当たって、単一パラメーターにのみ焦点を当てるのではなく、レイテンシー(データ転送時の遅延度合い)や帯域幅、ジッター(電子信号の伝送時間の誤差)、スループット(転送データ量)など、各種異なる領域にも注意を払っている。また、半導体メーカーもEEAの開発や生産に乗り出しているが、彼らのビジネスのコアはあくまでICチップの製造・販売だ。当社は、こうした複数の半導体メーカーが自動車業界により適合し、製品の性能を向上させるために、踏み込んだ協力を行っている。
質問:
貴社はミドルウエアの応用領域を自動車以外にも広げているとのことだが、具体的にはどういった領域か。
答え:
自律走行搬送ロボット(AMR)やサービスロボット、清掃ロボット、電動垂直離着陸機(eVTOL)、ファクトリーオートメーション(FA)などが挙げられる(図3)。これらに共通しているのは、多数のコンピューティングノードの集合体によって構成されており、各ノードがネットワークによって相互接続・協調することで、自律走行や姿勢制御など複雑なタスクに対応するということだ。こうしたシステムで、当社は高精度かつ適切なソリューションを提供でき、さらに、最も高いレベルの機能安全や情報セキュリティーに対する要求を満たすことができる。前述の応用領域は一見すると、それぞれ大きく異なるように見えるが、プラットフォームソフトウエアの観点から見た場合、内在するニーズは非常に似通っている。このことから、当社はさまざまな領域にわたってソリューションの提供が可能だ。
図3:オートコアエーアイがソリューション提供可能な応用領域
左から順に、自動車、電車、eVTOL(電動垂直着陸機)、航空宇宙分野、オートメーション分野、ロボット産業となる。

出所:オートコアエーアイ提供

システム基盤構築により、工場のスマート化にも貢献

質問:
ロボットの領域のミドルウエアとしては、Robot Operating System(ROS、注4)が普及しているが、貴社のソリューションとROSはどういった関係にあるのか。
答え:
ROSは、成熟したロボットの研究開発用オープンソースプラットフォームで、非常に有用だ。われわれが提供するシステムも、このオープンソースエコシステムの最も重要かつ長期的なコントリビューターの1つだ。ただし、ROSはあくまで先進技術の探索のために生み出されたもので、デモやプロトタイプ開発には適しているものの、機能安全やデータセキュリティーの面で量産に耐えられる性能を有していない。当社のプラットフォームはこうしたROSの短所を補い、ロボットメーカーに動作の安定性や性能を保証し、さらに、長期的なメンテナンスも約束することができる。加えて、当社のプラットフォームはROSとの高い互換性を有している。ROS上で製品を開発し、量産段階になったら、当社のプラットフォームにシームレスに切り替えるといったことも可能だ。こうしたことから、多くのロボットメーカーが量産に当たって当社のソフトウエアを採用している。
質問:
貴社のソリューションはFAにも応用可能とのことだが、具体的にはどのようなニーズ、顧客が抱える課題などに応えることができるのか。
答え:
インダストリー4.0(注5)を実現する上では、多くの課題が残されているが、とりわけ重要な問題は、オペレーショナルテクノロジー(OT)と情報技術(IT)の融合をいかに成し遂げるかという点だ。OTとITが融合して初めて、工場が「自動化」されている段階から、さらに次の段階の「スマート化」を達成することができる。当社のソリューションはこのOTとITの融合を手助けすることができる。当社のシステムを活用することで、システム層のインフラを構築できる。生産設備から吸い上げた多様なデータを統合して課題抽出した上で、それに対する解決策の提示までを行うことができる。これにより、生産ラインの効率化や材料・部品のロス削減が期待できる。
この領域で多くの場合は、生産ラインのスマート化を希望する工場が直接の顧客になる。時には生産設備メーカーと連携することもある。フィールドバスを使用した旧型の生産ラインを、バックボーンネットワークに接続した次世代生産ラインへとアップデートするニーズにも対応している(注6)。日本にはFA領域用のミドルウエアの標準化を目指した企業間アライアンスが形成されている。こうした組織と連携することも可能だと考えている。
質問:
日本への市場展開や、日本企業との協業連携を積極的に推進していると聞いている。展望を聞かせてほしい。
答え:
当社は日本に既に長期的な関係を築いているパートナー企業があり、非常に深い連携関係にある。今後も日本企業とのパートナーシップを拡大・深化していきたいと考えている。当社の主戦場の自動車やロボット、FAの領域では、日本のメーカーは非常に高い存在感と競争力を有している。われわれとしても、当社の技術力を発揮して日本企業の課題解決に役立てることを願っている。協業形式については、柔軟に検討することが可能だ。もし志をともにするパートナーが見つかれば、日本で合弁企業を設立することも前向きに考えている。
略歴
張暘(Yang ZHANG)
オートコアエーアイの創業者、最高経営責任者(CEO)。ARMアーキテクチャ向けオープンプラットフォーム「96Boards」の仕様策定を担当。その他にも、自動運転OSの業界標準を目指す世界初の国際業界団体「The Autoware Foundation」をティアフォーの加藤真平CEOらと共同で立ち上げるなど、さまざまなオープンソースプロジェクトに貢献した実績を持つ。スタートアップやプロダクトの立ち上げ経験も豊富に有する。

注1:
SDVは、Software-Defined Vehiclesの略。自動車の機能や性能をソフトウエアで定義することで、販売後もソフトウエアの更新によって自動車の機能を増やしたり、性能を高めたりできる。
注2:
車両の制御システムや通信・情報システム全体の構造を指す。最初はデバイスの機能ごとに電子制御ユニット(ECU)を配備する「分散型アーキテクチャ」が普及した。その後、機能群(ドメイン)ごとに車内デバイスを束ねて制御することで、より効率化が図られた「ドメイン・アーキテクチャ」が生まれた。最も先進的とされる「ゾーン・アーキテクチャ」は車内デバイスを物理的な配置(ゾーン)ごとにグループ化し、これらのグループを中央コンピュータで中央制御する構造を取る。「ゾーン・アーキテクチャ」には電装部品の配置を簡素化・効率化できる、中央制御化されることによってアプリケーション開発が容易になるなどのメリットがある。
注3:
顧客納品後、直ちに稼働できる状態にある情報システムを指す。調整や追加開発などの必要がない状態での受け渡しを可能とする。 鍵を回せば設備が稼働するターンキー方式であることを意味する。
注4:
米国のロボット研究開発会社のWillow Garage(ウィローガレージ)社が開発したロボット制御用ソフトウエア・ミドルウエア、ロボット開発プラットフォーム。オープンソースとして公開されており、世界中で利用されている。
注5:
インダストリー4.0とは、人間、機械、その他の企業資源が互いに通信することで、各製品がいつ製造されたか、どこに納品されるべきかといった情報を共有し、製造プロセスをより円滑なものにすることを指す。さらに、既存のバリューチェーンの変革や新たなビジネスモデルの構築をもたらすことを目的としている。
注6:
フィールドバスとは、工場やプラントの自動化を支える通信技術を指し、制御装置をつなぎ、効率的な生産ラインの運用を可能とするもの。バックボーンネットワークとは、大規模かつ高容量の、ネットワークの中核(基盤)となる部分を指す。複数の地域、都市、国のネットワークを接続し、データの高速伝送を可能とする。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
小野 好樹(おの こうき)
2016年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部、ウズベキスタン・タシケント事務所、市場開拓・展示事業部を経て、2020年9月から現職。

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